こんにちは、CotoMirai代表の勝村航太です。
「学童保育でプログラミングを導入したいけど、実際にはどうやって教えればいいの?」 「うちの学童にはプログラミングに詳しいスタッフがいないけど、本当にできるの?」 「予算や設備の制約があるけど、現実的に実施可能?」
全国の学童保育関係者の方から、こんなご相談をよくいただきます。
今回は、市川の「じぶんごとラボ」での実践経験と、現在関東4施設で展開中の「コトコレクション」の実際の指導方法について、具体的にお話ししたいと思います。
理想論ではなく、現場の制約を踏まえた実践的なノウハウをお伝えします。
学童保育の現実的制約を理解する
まず、学童保育でプログラミング教育を実施する上で避けて通れない制約を整理しましょう。
時間の制約
平日の学童保育スケジュール例:
- 15:00-15:30 到着・おやつ
- 15:30-16:30 宿題時間
- 16:30-17:30 自由遊び・活動時間
- 17:30-18:00 片付け・帰りの準備
- 18:00-19:00 延長保育(おやつ・自由遊び)
プログラミング活動ができるのは、実質16:30-17:30の1時間程度です。しかも、全員が同じ時間に参加できるわけではありません。
人的制約
学童保育スタッフの一般的な状況:
- 保育士資格はあるがIT経験はない
- パソコンは基本操作程度
- プログラミングは「全く分からない」
- 子どもへの指導経験は豊富
施設・設備の制約
一般的な学童保育の設備:
- パソコン:あっても2〜3台
- Wi-Fi:あるかどうか分からない
- プロジェクター:ない場合が多い
- 机:通常の学習机
- 予算:限られている
対象児童の制約
学童保育の児童構成:
- 学年:1年生〜6年生が混在
- 能力差:非常に大きい
- 参加頻度:毎日来る子、週2〜3回の子
- 集中力:年齢により大きく異なる
実践的な指導方法:年齢別アプローチ
これらの制約を踏まえて、実際にどのような指導を行っているかをご紹介します。
年長〜小学1年生:「触って動かす」体験重視
使用教材:
- ビーボット(Bee-Bot):床を動き回るプログラム可能なロボット
- ScratchJr:タブレット用の簡単なプログラミングアプリ
- アンプラグド教材:パソコンを使わない活動
指導のポイント:
- 短時間集中(15〜20分) 「今日はロボットさんを宝箱まで連れて行こう」
- 具体的で分かりやすい目標 「3つのボタンを押してロボットを動かそう」
- 身体を使った学習 「まず自分が歩いてみよう。前に2歩、右に1回曲がって…」
実際の活動例:
【活動:ロボットをお家に帰そう】
・床にマス目のマットを敷く
・ロボットの「お家」と「現在地」を設定
・「前進」「右回転」「左回転」のボタンの使い方を説明
・子どもたちが順番に操作
・みんなで「うまくいった!」を共有
小学2〜3年生:「作って見せる」創作重視
使用教材:
- Scratch(簡易版)
- KOOV:ソニーのプログラミング学習キット
- ワークシート:紙ベースの設計図
指導のポイント:
- 30〜40分の集中時間
- 作品発表の機会を設ける
- 友達との教え合いを促進
実際の活動例:
【活動:動く絵本を作ろう】
・Scratchでキャラクターを選ぶ
・「こんにちは」と言わせる
・キャラクターを動かす
・背景を変える
・友達に見せて感想を聞く
小学4〜6年生:「考えて解決する」問題解決重視
使用教材:
- Scratch(フル機能)
- micro:bit:小型コンピューターボード
- Arduino(上級者向け)
指導のポイント:
- 45〜60分のプロジェクト型学習
- 自分で問題を設定させる
- 論理的思考を重視
実際の活動例:
【活動:学童の課題を解決するアプリを作ろう】
・学童での困りごとを話し合う
・「忘れ物チェッカー」「じゃんけん大会」などアイデア出し
・Scratchで簡単なプロトタイプ作成
・改良点を考えて修正
・学童のみんなに発表
学年混合クラスの運営方法
学童保育の特徴である「学年混合」を活かした指導方法をご紹介します。
ペアプログラミングの活用
基本的な組み合わせ:
- 高学年1人 + 低学年1人
- 中学年2人
- 高学年1人 + 低学年2人
役割分担:
- 高学年:操作とアイデア出し
- 低学年:観察と質問
- 交代制:15分ごとに操作を交代
レベル別課題の同時進行
同じテーマで難易度別課題:
例:「動物園を作ろう」
- 初級(1〜2年生):動物を1匹動かす
- 中級(3〜4年生):動物を複数動かす
- 上級(5〜6年生):動物の鳴き声や説明を追加
教え合いシステム
「教えてポスト」の活用:
- 困った時は紙に書いて「教えてポスト」に入れる
- 高学年の子が定期的にチェックして教えに行く
- 教えた子も教わった子も「ありがとうシール」をもらえる
スタッフ研修・サポート体制
プログラミングに詳しくないスタッフでも実施できる仕組みづくりについてお話しします。
事前研修(90分×2回)
第1回:基本理解編
- プログラミング教育の目的・意義
- 使用教材の基本操作
- 年齢別指導ポイント
- よくあるトラブルと対処法
第2回:実践編
- 実際に子ども役になって体験
- 指導案の確認
- 声かけの練習
- 質問への対応方法
指導マニュアルの活用
マニュアルの構成:
- 準備チェックリスト:当日の準備手順
- 進行台本:時間配分と声かけ例
- トラブル対応集:よくある問題と解決法
- 評価シート:子どもの様子を記録
実際の進行台本例:
【開始5分前】
□ パソコン・タブレットの電源確認
□ 教材の配布準備
□ 座席配置の確認
【開始時の声かけ】
「今日はプログラミングの時間です。
みんなでロボットを動かしてみましょう。
分からないことがあったら、手を挙げて教えてくださいね。」
継続的なサポート体制
月1回の振り返り会:
- うまくいったこと・困ったことの共有
- 子どもたちの反応や成長の確認
- 次月の活動内容の調整
- 新しい教材や方法の検討
専門講師による定期サポート:
- 月1回の現場訪問
- スタッフからの質問対応
- 子どもたちの様子観察
- 指導方法の改善提案
必要な設備・予算と調達方法
現実的な設備投資と予算について、具体的な数字をお示しします。
最小限の設備(6名クラス想定)
必要機材:
- タブレット:3台(2人で1台使用)
- Wi-Fi環境:1回線
- 延長コード:2本
- 簡易プロジェクター(推奨):1台
初期投資概算:
- タブレット:3万円×3台=9万円
- Wi-Fi工事:3〜5万円
- プロジェクター:3万円
- その他備品:2万円
- 合計:17〜19万円
予算調達のアイデア
1. 段階的導入
- 最初はレンタル機材で試験導入
- 効果を確認してから購入検討
- 保護者会での説明と理解促進
2. 助成金・補助金の活用
- 自治体の教育関連補助金
- 民間財団の助成金
- 企業のCSR活動による寄付
3. 保護者・地域との連携
- 保護者会での説明と協力依頼
- 地域企業からの機材提供
- 中古機材の活用
運営費用(月額)
コトコレクション利用の場合:
- 専門講師指導料:1回10,000円
- 月4回実施:40,000円
- 教材費・交通費等:月5,000円
- 月額合計:45,000円
6名参加の場合の1人当たり費用:
- 45,000円÷6名÷4回=1,875円/回
- 一般的なプログラミング教室:3,000〜5,000円/回
実際の効果測定と評価方法
導入効果をどのように測定・評価しているかをご紹介します。
子どもたちの変化指標
1. 集中力の測定
- 活動開始から集中が切れるまでの時間
- 導入前:平均15分 → 導入後:平均35分(3ヶ月後)
2. 質問・発言の頻度
- 1時間あたりの自発的発言回数
- 導入前:平均2回 → 導入後:平均7回
3. 協力行動の観察
- 困っている友達を助ける行動の回数
- 自分の作品を見せたがる頻度
- 年下の子に教える場面の観察
して?』という質問が増えた」
スタッフによる評価
月次評価シートから:
良かった点:
- 子どもたちの集中力向上
- 異年齢の交流促進
- 新しい一面の発見
- 活動の幅が広がった
課題・改善点:
- 個人差への対応
- 機材トラブルの対処
- 時間配分の調整
- 継続参加の促進
よくある課題と解決策
実際の運営で直面する課題と、その解決策をご紹介します。
課題1:参加者のばらつき
問題: 毎回参加する子と、たまにしか参加しない子で進度に差が出る
解決策:
- 個別カードで進度管理
- 「いつでも参加OK」の仕組み
- ペア学習で相互サポート
- 作品発表で達成感を共有
課題2:機材トラブル
よくあるトラブル:
- Wi-Fiが繋がらない
- タブレットが動かない
- アプリが開かない
対策:
- オフライン教材の準備
- 簡単な操作マニュアル
- トラブル時の代替案
- 専門講師への即座連絡体制
課題3:スタッフの負担
問題: プログラミングに詳しくないスタッフの心理的負担
解決策:
- 「教える」のではなく「一緒に学ぶ」スタンス
- 分からない時は「一緒に調べよう」
- 子どもたちの「教え合い」を活用
- 定期的な振り返りとサポート
課題4:継続的な参加促進
問題: 最初は興味を持っても、だんだん参加しなくなる
解決策:
- 定期的な作品発表会
- 保護者への活動報告
- 「次回予告」で興味継続
- 個別の声かけと励まし
導入を検討している学童保育へのアドバイス
これから導入を検討している学童保育の方々へ、実践者としてのアドバイスをお伝えします。
ステップ1:現状把握と目標設定
確認すべき項目:
- 現在の活動時間と空き時間
- スタッフの興味・関心度
- 設備・予算の状況
- 保護者のニーズ
目標設定例:
- 「まずは月1回のイベントから」
- 「3ヶ月後に定期活動化」
- 「子どもたちの新しい一面発見」
ステップ2:小さく始める
推奨する導入方法:
- 体験イベント(1回)
- 外部講師による実施
- 保護者見学可能
- 効果と反応を確認
- 短期プログラム(月2回×3ヶ月)
- 継続効果の確認
- スタッフの慣れ
- 課題の洗い出し
- 定期活動化(週1回)
- 本格的な導入
- 評価・改善サイクル
ステップ3:継続的な改善
重要なポイント:
- 完璧を求めすぎない
- 子どもたちの反応を最優先
- スタッフの負担を考慮
- 定期的な見直しと調整
他施設との連携・情報交換
一つの学童だけで完結する必要はありません。
地域連携のメリット
共同開催イベント:
- 複数の学童合同でのプログラミング大会
- 作品発表会の合同開催
- スタッフ研修の共同実施
情報交換の場:
- 月1回の担当者会議
- 成功事例・失敗事例の共有
- 教材・機材の相互貸し出し
地域専門家との連携
協力可能な専門家:
- 地域のIT企業
- 高校・大学の情報科教員
- プログラミング教室の講師
- 退職したエンジニア
今後の展開と可能性
学童保育でのプログラミング教育は、まだ始まったばかりです。
短期的な展開(1〜2年)
- 導入施設の増加
- 指導方法の標準化
- 教材の改良・開発
- スタッフ研修体制の充実
中期的な展開(3〜5年)
- 自治体レベルでの導入支援
- AI技術を活用した個別最適化
- 他の習い事との連携
- 評価方法の確立
長期的な展開(5年〜)
- 全国的な普及
- 国の教育政策への反映
- 新しい職業体験の機会
- 国際交流プログラム
最後に:現場の皆さんへのメッセージ
学童保育の現場で日々子どもたちと向き合っている皆さんへ。
プログラミング教育は、決して難しいものではありません。大切なのは、「子どもたちの可能性を信じる」こと、そして「一緒に学ぶ」姿勢です。
私たちも最初は手探りでした。失敗もたくさんしました。でも、子どもたちの「できた!」という笑顔を見る度に、「やってよかった」と思えました。
完璧を求める必要はありません。小さな一歩から始めて、子どもたちと一緒に成長していけばいいんです。
全国の学童保育で、プログラミング教育を通じた新しい学びが広がっていくことを心から願っています。
学童保育向けプログラミング教育「コトコレクション」
実際の導入を検討されている学童保育関係者の方は、お気軽にご相談ください。
提供サービス:
- 体験イベントの実施
- 導入前相談・現場見学
- スタッフ研修プログラム
- 継続指導・サポート
お問い合わせ: https://lp.cotoism.com/cotocotocollection/
勝村航太プロフィール:
- CotoMirai代表
- 埼玉大学教育学部卒業
- 法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了
- 学童保育×プログラミング教育の実践者
一人でも多くの子どもたちに、プログラミングを通じた「学び」と「発見」の機会を提供していきましょう。