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結論:フリースクールにプログラミング・体操などの習い事プログラムを組み合わせる際は、「子どもが選べる構造」「複数ジャンルの並列提供」「やりたい気持ちが整ったときに始められる順序設計」の3点が共通する設計原則です。公立の学びの多様化学校(八王子市立高尾山学園など)でも「押しつけない」方針のもとスポーツ系・文化系・ものづくり系の講座を週4時間設けており、民間フリースクールでも同様の考え方が有効です。Un-School計画は2011年からのプログラミング教育実績を基盤に、IT・ものづくり・スポーツを組み合わせた多角的な才能開花エコシステムを実践しており、運営者が自施設の設計を考える上での参考になります。
フリースクールや不登校支援施設を運営していると、「居場所として安心できる環境は整えた。でも、子どもたちが何をすればいいか分からず、意欲が続かない」という壁にぶつかることがあります。そこで注目されているのが、プログラミング・体操・ものづくりといった習い事的なプログラムを施設内に組み込む運営モデルです。ただし、「習い事を用意すればよい」という単純な話ではなく、設計の順序と思想が結果を大きく左右します。本記事では、公立の学びの多様化学校の実践事例と、2011年からプログラミング教育に関わってきたUn-School計画の設計思想を軸に、運営者が自施設のプログラム設計に応用できる視点を整理します。
フリースクールに習い事を組み込む意義と課題
「ただ集まるだけ」から一歩進むための視点
不登校の子どもにとって、まず必要なのは「安心して過ごせる場所」です。しかし、安心感が生まれた後に「次に何をするか」という問いが生まれます。この段階で、プログラミングや体操・ものづくりといった活動の選択肢があると、子どもは自分の興味を起点に動き始めやすくなります。
習い事的なプログラムを組み込む意義は、単に「時間を埋める」ことではありません。子どもが「自分にはこれができる」「これが好きだ」と感じる体験を積み重ねることで、自己効力感が育まれます。これは、学校復帰を前提とするかどうかにかかわらず、子どもの長期的な自立に直結する要素です。
習い事プログラム導入で運営者が直面しやすい3つの課題
一方で、運営者が実際にプログラムを導入しようとすると、いくつかの課題が浮かび上がります。
第一は「強制になるリスク」です。「せっかく用意したのだから参加してほしい」という運営側の期待が、子どもへの無言のプレッシャーになることがあります。不登校の子どもは、学校での「やらなければならない」という経験に疲弊していることが多く、同じ構造を再現してしまうと逆効果になりかねません。
第二は「子どもの意欲のばらつき」です。同じ施設に通う子どもでも、プログラミングに興味を持つ子もいれば、体を動かすことが好きな子も、静かにものを作ることが好きな子もいます。単一のプログラムだけでは、全員の意欲を引き出すことは難しいです。
第三は「スタッフ確保と役割設計」です。プログラミングと体操を同時に提供しようとすると、それぞれの専門性を持つスタッフが必要になります。また、「教える」役割と「見守る・伴走する」役割を明確に分けないと、スタッフが混乱することもあります。
なお、民間フリースクールは学びの多様化学校(公立)とは法的位置づけが根本的に異なります。学びの多様化学校は学校教育法施行規則に基づく文部科学大臣指定の学校であり、卒業資格を取得できますが、民間フリースクールは法的位置づけがなく、在籍は元の学校のままです(全国PTA連絡協議会の情報による)。この制度的な違いを踏まえた上で、プログラム設計の参考として公立事例を活用することが重要です。
公立「学びの多様化学校」の実践事例から読み取る設計原則
八王子市立高尾山学園|スポーツ・文化・ものづくりを「講座学習」として週4時間設置
東京都八王子市立高尾山学園は、2004年に「不登校特例校」として設置された公立校の先駆け的存在です(2023年8月に「学びの多様化学校」へ改称)。同校の注目すべき取り組みが「講座学習」です。
東京すくすく(東京新聞)の報道によると、高尾山学園では総合的な学習において、教科にとらわれない個々の関心・意欲に応じた体験的な授業をスポーツ系・文化系・ものづくり系などのジャンルに分けて「講座学習」として週4時間設けています。これは民間フリースクールが習い事プログラムを設計する際の参考になる構造です。
さらに重要なのが方針です。同校は基本として「何事も押しつけない」とし、学ぶ気持ちが整っていない子どもには授業を無理強いしない方針を取っています(東京新聞)。習い事プログラムを「用意する」ことと「強制しない」ことを両立させているわけです。
支援体制についても、東京新聞の報道では、プレイルーム・相談室・保健室で過ごすことができ、相談員や養護教諭らが見守る体制が整っており、非常勤スタッフも含めると100人近い大人がいると報告されています。また、登校率75%・高校進学率97.5%という数値も同報道に記載されています(いずれも報道時点の数値であり、現在は変動している可能性があります)。

京都市立洛風中学校|「創造工房」で音楽・美術・技術を統合し、時間設計にも配慮
京都市立洛風中学校は、年間総授業時数を770単位時間に設定しています(文部科学省が学習指導要領で定める標準は1,015単位時間)。始業時刻は9時30分で、これは他の学校の生徒と同じ通学時間帯にならないよう配慮したものです(note記事による)。
プログラム設計の観点で特に参考になるのが「創造工房」という独自教科です。音楽・美術・技術家庭科を統合した体験活動として実施されており、教科の境界を取り払って子どもの体験を中心に設計されています。また、部活動はなく、代わりに週3日「放課後活動」を設けています。
民間フリースクールの運営者にとって示唆的なのは、「時間の設計」と「プログラムの統合」を同時に行っている点です。プログラミングと体操を別々の習い事として並べるのではなく、「ものを作る・動かす・表現する」という体験として統合的に設計することで、子どもが活動の意味を感じやすくなります。
さいたま市立いろどり学園|オンライン個別学習とメタバースを組み合わせたデジタル活用
2026年4月に開校したさいたま市立いろどり学園(さいたま市公式HPによる)は、個別の学習は主にオンラインで、仲間と共に協働する学習は主に対面で行うなど、児童生徒が学習形態を選択できる仕組みが特徴です。2D・3Dメタバース等を活用した学習も取り入れています。
デジタル系プログラム(プログラミングを含む)の導入を検討している運営者にとって、「個別のデジタル学習」と「対面での協働活動」を組み合わせるという設計は参考になります。プログラミングは個人のペースで進めやすい一方、体操やものづくりは他者と一緒に行うことで意欲が高まりやすいという特性があり、この組み合わせは理にかなっています。なお、いろどり学園は開校直後であり、プログラム内容・定員等は変更される可能性があります。
民間フリースクールにおけるプログラミング・体操の組み合わせ設計
「好き・得意」を軸にした多角的プログラム設計の考え方
Un-School計画が掲げる設計思想の核心は、「一人ひとりの好きや得意をトコトン伸ばす」というアプローチにあります。これは、あらかじめ決められたカリキュラムを全員に提供するのではなく、子どもの興味・関心を起点にプログラムを組み立てるという発想です。
この思想の背景には、代表・勝村航太氏の学術・実務経験があります。勝村氏は埼玉大学教育学部を卒業後、同大学STEM教育研究センターの事務局長を2016年から2020年まで務めました。STEM教育(Science・Technology・Engineering・Mathematics)は、教科の枠を超えて子どもの探究心を育てることを目的としており、この考え方がUn-School計画のプログラム設計の基盤になっています。
また、2012〜13年にはタイの私立小学校のSTEM教育プロジェクトに参加した実務経験も持ちます。学校という制度の外側でSTEM教育を実装する経験は、「習い事的なプログラムを教育文脈に組み込む」際の設計思想に直接つながっています。
プログラミング教育を軸に、ものづくり・スポーツへ広げるステップ
Un-School計画は2011年からプログラミング教育に関わってきた実績を持ちます。そして2022年にはFabriCo(ファブリコ)を開所し、武田塾神保町校の運営も開始するなど、複数の教育事業を展開しています。FabriCoはものづくりを軸とした拠点として位置づけられており、プログラミング教育から派生したものづくり領域への展開例として参考になります(詳細はUn-School計画公式サイトをご参照ください)。
この事業展開の経緯は、単一プログラムから複数ジャンルへと広げていく運営モデルの実例として機能します。プログラミング教育を起点として、ものづくりへと領域を広げ、さらにスポーツ・体操といった身体活動も組み合わせることで、「IT・ものづくり・スポーツの多角的才能開花エコシステム」が形成されます。
運営者が自施設でこのステップを参考にするとすれば、まず一つのジャンル(例:プログラミング)で実績を積み、子どもたちの反応を見ながら隣接するジャンル(ものづくり、次いでスポーツ)へと広げていくアプローチが現実的です。
学校復帰を前提としない方針がプログラム設計に与える影響
Un-School計画は「学校復帰を前提としない」相談方針を明確に掲げています。この方針は、プログラム設計にも直接影響します。
学校復帰を前提とする場合、プログラムは「学校の授業に追いつくための補完」という位置づけになりがちです。一方、学校復帰を前提としない場合、プログラムは「その子が今、興味を持てること・得意なことを伸ばす」という目的で設計できます。プログラミングや体操は、学校の教科とは直接結びつかない場合でも、子どもの自己効力感や社会性を育む活動として機能します。
この方針の違いは、プログラムの評価方法にも影響します。「学校の成績に反映されるか」ではなく、「子どもが自分から取り組んでいるか」「活動を通じて何かを発見しているか」を評価軸にすることで、子どもへのプレッシャーを最小化しながら成長を支援できます。
プログラミング・体操を組み合わせる際の実践上のポイント
「選べる構造」を作る:並列提供と強制しない順序設計
公立・民間の事例から共通して読み取れる最も重要な原則は、「子どもが選べる構造」を作ることです。高尾山学園の「講座学習」も、洛風中学校の「創造工房」も、Un-School計画の多角的エコシステムも、共通して「複数の選択肢を並列で用意し、子どもが自分で選ぶ」という設計になっています。
実践上のポイントは、選択肢を「同時に」提供することです。「まずプログラミングをやってから、次に体操」という直列の順序ではなく、「プログラミングも体操もものづくりも、今日はどれをやりたい?」という並列の提供が、子どもの自律性を育てます。
また、「何もしない」という選択肢も用意することが重要です。高尾山学園がプレイルームや相談室での滞在を認めているように、「活動に参加しない日」があることを前提とした設計が、長期的な通所継続につながります。
プログラミングと体操(バク転など)を並列で用意する理由
プログラミングと体操は、一見すると全く異なる活動ですが、組み合わせる理由があります。プログラミングは「論理的に考え、試行錯誤する」活動であり、画面の前で静かに集中する時間が中心です。一方、体操(マット運動・バク転など)は「身体を動かし、感覚で覚える」活動であり、成功体験が視覚的・身体的に明確です。
この二つを並列で用意することで、「今日は頭を使いたい気分」の子どもも「今日は体を動かしたい気分」の子どもも、それぞれの状態に合った活動を選べます。また、プログラミングが得意な子どもが体操に挑戦したり、体操が好きな子どもがプログラミングに興味を持ったりという、ジャンルを越えた探究が生まれる可能性もあります。
体操プログラムを自施設で実施する場合、安全な練習環境の整備が前提になります。バク転などの技を練習する際には、衝撃を吸収できるマットや補助器具の準備が必要です。インフレータブルタイプのタンブリングマットは転倒時の衝撃を吸収しやすく、施設での導入に適しています。
空気式の補助器具を活用することで、スタッフが手で補助しなくても子どもが安全に練習できる環境を作りやすくなります。体操教室でも使われているエアーロール型の器具は、バク転の動きに合わせてロールさせながら使うタイプで、取っ手付きのものはサポートもしやすい設計です。
スタッフに求められる役割の変化:教える人から伴走する人へ
習い事プログラムを導入する際、スタッフの役割設計は見落とされがちな重要ポイントです。高尾山学園が多くのスタッフを配置しているのは、「教える人」だけでなく「見守る人」「相談に乗る人」「一緒に過ごす人」という多様な役割が必要だからです。
民間フリースクールでは同規模のスタッフ配置は難しいですが、役割の考え方は参考になります。プログラミングや体操の「指導者」としての役割と、子どもの状態を見守り必要に応じて声をかける「伴走者」としての役割を、同一人物が担う場合でも意識的に切り替えることが重要です。
特に不登校の子どもは、「できないことを指摘される」経験に敏感なことがあります。プログラミングでエラーが出たとき、体操で技が決まらないとき、スタッフが「なぜできないか」を教えるより先に「一緒に考えよう」「もう一回やってみよう」という姿勢で関わることが、子どもの意欲を守ります。
Un-School計画の設計思想|STEM教育の学術・実務背景から見る多角的アプローチ
STEM教育の学術・実務経験が生んだ「才能開花エコシステム」の発想
Un-School計画の「他社との違い」として掲げられているのが、「ただ集まるだけでなく、IT・ものづくり・スポーツなど多角的な才能開花エコシステムがある」という点です。この「エコシステム」という表現は、単に複数のプログラムを並べることではなく、それぞれの活動が相互に影響し合いながら子どもの成長を支える仕組みを指しています。
勝村航太氏が埼玉大学STEM教育研究センターで事務局長を務めた2016〜2020年の経験は、この発想の学術的な基盤になっています。STEM教育の本質は、Science・Technology・Engineering・Mathematicsを個別に教えることではなく、これらを統合した問題解決型の学びを設計することにあります。この考え方を学校外の文脈に応用したのが、Un-School計画の多角的プログラム設計です。
タイのSTEMプロジェクト経験から学んだ「習い事×教育」の接続方法
2012〜13年にタイの私立小学校のSTEM教育プロジェクトに参加した経験は、「習い事的なプログラムを教育文脈に組み込む」際の実務的な知見を提供しています。海外の教育現場でSTEM教育を実装する経験は、日本の学校制度の外側でどのようにプログラムを設計するかという問いへの実践的な答えを持つことを意味します。
この経験から導かれる示唆は、「習い事」と「教育」を対立させないことです。プログラミングは「習い事」でもあり「教育」でもあります。体操も同様です。フリースクールの運営者が「習い事的なプログラムを教育として位置づける」ことができれば、子どもへの提供の仕方も、保護者への説明の仕方も変わります。
Un-School計画のフリースクールでプログラミングを学ぶ選び方は、この設計思想を保護者向けに解説した内容として参考になります。
まとめ|フリースクール運営者が習い事プログラムを設計する際の3原則
公立の学びの多様化学校の実践事例と、Un-School計画の設計思想から共通して読み取れる原則を3点に整理します。
| 原則 | 内容 | 実践例 |
|---|---|---|
| ①選択肢の多様性 | プログラミング・体操・ものづくりなど複数ジャンルを並列で用意する | 高尾山学園の「講座学習」(スポーツ系・文化系・ものづくり系)、Un-School計画のIT・ものづくり・スポーツの組み合わせ |
| ②押しつけない順序設計 | 「やりたい気持ちが整ったときに始められる」構造を守る | 高尾山学園の「何事も押しつけない」方針、「何もしない」選択肢の確保 |
| ③学術・実務に裏打ちされた設計思想 | なぜその組み合わせが有効かを説明できる根拠を持つ | Un-School計画のSTEM教育研究センター経験・タイSTEMプロジェクト実績、2011年からのプログラミング教育実績 |
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この3原則は、施設の規模や予算にかかわらず応用できます。まず「選べる構造」を作り、「強制しない」という方針を明確にし、「なぜこのプログラムを提供するか」という設計思想を言語化することが、持続可能な運営につながります。
Un-School計画の取り組みや設計思想についての詳細は、勝村航太氏の不登校支援方針と取り組みの詳細でも確認できます。また、居場所と習い事の組み合わせを地域別に検討している場合は、港区で放課後の子どもの居場所・習い事を選ぶ3つの軸も参考になります。